2011/01/10

Sleigh Bells (W/ Bo Ningen), Duo Music Exchange, 2011.1.10


渋谷Duo Music Exchangeで行われた、Sleigh Bellsの初来日。サポート・アクトにはBo Ningen。

18:00スタートで、まずはBo Ningenから。ライブが観たくてしょうがなかったバンドだ。とにかく、圧倒的。最初の1分で場内の空気を塗り替え、次の1分でそれを快感に変え、あとは観客をずぶずぶと底なし沼に引き込むだけ。あっけにとられるような見た目と破天荒なパフォーマンスとは裏腹に、ストレートだけで押し切るような、力業といっていいショウだったのは面白かった。CDそのまんま、というかCDがライブそのまんまということなのかもしれないけど、ドシャメシャなのにメリハリがくっきりしていて、決して雰囲気やカッコに逃げない。見た目以上にタフなバンドなのだ。

Bo Ningen / Bo Ningen
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Bo Ningenは斬新とか、画期的とか、そういうバンドではない……つまり、日本語アングラ・ロックとしてはむしろ典型的なものだと思うのだが、彼らはそれを「芸」として、もしくは「芸風」としてやっているのではない。真っ当すぎるくらい真っ当な志向と趣味の帰結として、あるいはロンドンの日本人バンドという「状況」がそうさせたのかもしれないが、とにかくピュアでストレートな表現として、彼らはこの音にたどり着いた――という印象を抱かせる。やけに低いマイクの位置とか、やたらとブン回されるギターとか、あとTaigenのヘアスタイルとか、ぱっと見た感じは非常に記号的/クリシェ的な要素を感じさせるBo Ningenだが、歌いたいことをそのまま歌う、という、どういうわけかいまの日本の業界ではなかなかお目にかかれないロックを、(語弊があるかもしれないけど)素直にやっている。たとえば彼らのレパートリーのなかでもとりわけ美しい楽曲である"Yuruyakana Ao"などは、まあかなりドロドロしたサイケデリアを描くわけだけれど、そのメッセージというか情景は、不思議なくらいすんなりと聴いている側のエモーションを刺激するのである。明らかにSleigh Bells目当てだった前方のお客さんも、最後にはかなり掴まれている感じだった。ロックのライブの力という意味では、メイン・アクトを食ってすらいた、と思う。

Bo Ningen "Koroshitai Kimochi"

Bo Ningen- Koroshitai Kimochi from Stolen Recordings on Vimeo.

そのメイン・アクト、Sleigh Bells。まずライブを観るまでの僕の彼らに対する見解を述べておく。アルバム"Treats"はかなり好きだし、Sleigh Bellsというのは間違いなくここ最近でもっとも重要なロックの発明であるが、ロック・ミュージックとしての本来的なパワー、本質という意味でいうと、僕はまだこのバンド(というかユニット)を全面的に支持するところまではいっていなかった。要するに、アイディアとしては画期的で鋭いのだけど、逆にいえばアイディアどまりのもんだろうと思っていた。

それは、ある意味では正しく、ある意味では違っていた。

積み上げられたマーシャルのアンプ、ぽつん、ぽつんと2本並べられたマイクスタンド、メタル・マナーにそってステージの床は綺麗に片付けられている。そもそもリズム・セクションはすべて打ち込みで、ハードなギターと女性ヴォーカルによるエレクトロニック・ポップ・ミュージックというのだから、構成要素としてはエイベックスあたりの何とかというユニットとおんなじわけだ。だから、ステージはできるだけ小奇麗に、そしてクールにセッティングする必要がある。

Sleigh Bells / Treats
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いまさら指摘するまでもないことだが、Sleigh Bellsというのは、元Poison The Wellのギタリスト、Derek E. Millerによるロックへの復讐装置である。だからSleigh Bellsはこんなイビツな体制でイビツな音楽をやる必要があるわけで、これがたとえば5人組のバンド形態だったらまったく意味を失ってしまうのだ。薄っぺらい、書割みたいな「バンド」から鳴らされる音が、とびきりクールだともてはやされることーーダンス・ミュージックやヒップホップを隠れ蓑にSleigh Bellsが成し遂げた「勝利」とは、つまりそういうものだ。そして今日のライブもまた、そんな彼らの「勝利」の瞬間をまざまざと見せつけるものだったのだ。

だから、カラオケ上等ということである。ときにはDerekも引っ込んで、Alexis Clausのマイク1本でパフォーマンスをやってのける、そこにSleigh Bellsの逆説的なロック性、パンク性があるといっていい。彼らは書割のような「ロック」を、過剰なヴォリュームとテンションで提供する。ただそれだけを真摯にやり尽くす。だから、カラオケだろうがなんだろうが、音がペラかろうがなんだろうが(いや、音はバカでかいんだけれども)、その音にはガツンと質量が生まれるのである。そうした意味で、彼らのライブは100点。イビツな音の塊を力任せにぶん投げるような、超攻撃的で超自覚的なパフォーマンスだった。これを、たとえば「生バンドで観たかった」といっていてはダメなのである。彼らは反ロック的で画期的なリヴェンジのアイディアを、そのパフォーマンスにおいて思い切り「ロック」にしてしまった。

Sleigh Bells "Crown on the Ground"


Bo NingenとSleigh Bells。両極端ともいえる2組は、どちらも雰囲気やモードに逃げない表現としての誠実さと真摯さにおいて、ロックの本丸に斬り込んでみせたのである。

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