2011/01/27

4AD Evening, Shibuya O-East, 2011.1.24

遅くなってしまったが、改めてレポートを。

4ADのレーベルメイト3組によるショウで、出演したのはBlonde Redheadをヘッドラインに、DeerhunterとAriel Pink's Haunted Graffiti。どれも好きなバンドだけど、今回の個人的目玉は何といってもDeerhunter。ついでAriel Pink。なのでここではその2組だけを書く。Blonde Redheadはごめんなさい(この3組のなかでいちばん4ADの遺伝子が色濃いのはBRなのだが)。



まずはAriel Pink。

Ariel Pink's Haunted Graffiti "Round and Round (On TV Show)"


このギラギラの衣装で登場して、やけに低い位置にセッティングされたマイクに向かって、長髪を振り乱しながら歌うArielは、予想以上に歌がしっかりしていた。それにしても、アルバムと全然印象が違うというか、アルバムで聴くよりも世界観がはっきりしていた。もっと輪郭が曖昧なイメージだったのだけど。さしずめガレージに住み着いたZiggy Stardustといった風情で、ドラムのフィルもやたらと時代がかっている(でもちょっとたどたどしい)。でもこれはコンセプトと呼ぶべきものではなくて、趣味なのだろう。

Arielという人について僕はまだはっきりとした評価をくだせていないし、アルバムについても正直ピンと来ていないところがある。ただひとつ思ったのは、この人の過剰な記号性と装飾に満ちたステージでのパフォーマンスは、そのまま彼の自閉性を象徴しているということだ。彼が歌っていることとは大雑把にいって「俺の思っていることも、この世界も、あれもこれも、嘘でくだらなくて空っぽだ」ということである。それでイメージが宇宙へと飛んでいってしまうというのは、じつは往時のBowieとおんなじだったりもするわけである。ただ、Bowieの場合は世界からの過激な攻撃を受けてのリアクションだったのに対して、Arielの場合はそれが出発点だということである。バンドを組もうが、こうしてギラギラに飾り立てようが、あらゆる音楽から美味しいところをとってこようが、その根本は何も変わらない。だから彼の歌はどうしようもなくやけっぱちなのだろう。

Setlist:
1.Beverly Kills
2.L’estat
3.Getting’ High In The Morning
4.Credit
5.One On One
6.The Spain City
7.Fright Night
8.Menopause Man
9.Round And Round
10.Bright Lit Blue Skies
11.Butthouse Blondies
12.Little Wig
※変更あったかもしれません。


Ariel Pink's Haunted Graffiti / Before Today
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続いてはDeerhunter。"Halcyon Digest"という傑作をものにしたいま、とてつもないライブになることは容易に予想できたのだが、これほどまでとは。

出てくるなり「シブヤー!」と叫んだBradford Cox。いまでもはっきり覚えているのだが、前回来日したとき(2009年6月)、O-WESTでの彼の第一声は「It's time to rock and roll!」だった。そして実際、ショウは「ロックンロール」と呼んでさしつかえない、激しくて切羽詰ったものになった。対して今回、Deerhunterはもはやロックンロールではなく、堂々たる「ロック」を鳴らしていた。とにかく音のスケール感がハンパではないのだ。

Bradfordはステージで激しくアクションをしたり、客をあおったりするタイプのフロントマンではない。長身を折り畳むようにしてギターを抱え、ときどき何かのスイッチが入ったかのように頭を振って弦をかきむしる以外は、気の利いたMCをするわけでも、バンドを代表して何かを体現するわけでもなく、どちらかといえば何か居心地が悪そうにそこにいる。これが彼のソロ・プロジェクトであるAtlas Soundだとまったく違うのだが。めちゃくちゃ愛想のいいJosh (Ba)みたいなやつが横にいるから、別にいいやと思っているのだろうか(Joshは曲が終わるたびに、まるでBeatlesみたいに深々とおじぎをする)。そうではないだろう。むしろ、その「居心地の悪さ」こそがDeerhunterの原点なのだ。「俺はここにいていいのか」≒「俺はここで生きていていいのか(生きていることに違和感を感じている)」……という男がBradfordである。世界から閉ざされた夢想の表現であるAtlas Soundに対して、世界に向けて開かれて「しまった」窓であるDeerhunterは、Bradfordにとってはたいそう居心地のよくないものなのだろう。

1曲目はLockett (Gt)がヴォーカルをとる"Desire Lines"でじっとりと。そこからじりじりと熱量を上げていく。"Revival"で最初のハイライト。そしてクライマックスは"Memory Boy"と"Nothing Ever Happened"の続けて披露した6、7曲目だったろう。Bradfordは堰をきったように叫び、ギターをかき鳴らした。それを、肉厚さを増したバンド・サウンドがどっしりと支える。スケールは際限なく広がり、Bradfordの苦悩がみるみる増幅されていく。その音は、彼の違和感や複雑な感情を世界のスタンダードにせんとばかりのヴォリュームで鳴り渡るのだ。

僕はそれを見ていて、これはRadioheadだ、と思った。冗談ではない。つぎのRadioheadという存在がもしありえるとしたら、Deerhunterこそそれにふさわしいバンドなのではないか。Thom Yorkeがかつて世界に向かって孤独な闘いを強いられていたのと同様に、Bradford Coxは自らの内に沸き起こる世界との齟齬と闘っている。あまりにも観念的なその音楽的源泉が、今回のライブではきわめてクリアに実体化していた。これはおそるべきことだと思う。

Setlist:
1.Desire Lines
2.Hazel
3.Don’t Cry
4.Revival
5.Little Kids
6.Memory Boy
7.Nothing Ever Happened
8.Helicopter
9.He Would Have Laughed
10.Circulation
※変更あったかもしれません。

Deerhunter / Halcyon Digest
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2 件のコメント:

  1. はじめまして。
    突然のコメントで失礼します。

    >僕はそれを見ていて、これはRadioheadだ、と思った。

    私もまったく同じ感想をライヴレポに書いていたので、びっくりして、思わずコメントさせて頂きました。
    トム・ヨークの後継者はブラッドフォードしかいない・・・とあの日のライヴを観て確信しました。
    あまりにも刺さってしまったライヴで、いまだにDeerhunterばかり聴き続けてます。

    今度は単独でもライヴを観てみたいです。

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  2. >RAYさん

    はじめまして。コメントありがとうございます!
    Deerhunter、最高でしたね。あの、暗さが暴発する感じがトム・ヨークを連想させるんですよね。もっと大きくなってほしいと思います。

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